10月29日(土)に、特別講演会『巴水版画の「もののあはれ」』を開催しました。本講演は、『巴水の日本憧憬』(河出書房新社)の著者である林 望(はやし のぞむ/作家・国文学者)氏です。
事前申込制であったこの講演会は、2022年10月31日〜11月3日に開催した大学新1号館完成記念企画:川瀬巴水作品展覧会『川瀬巴水と茨城-見逃されていた美景の宝庫-』の幕開きイベントでした。
また、同年1月19日~2月3日に実施した川瀬巴水オンライン展覧会『川瀬巴水が描いた情景』から続くイベントでもあります。
開演に先立ち、巴水展を企画した本学文学部文化交流学科の染谷智幸教授が、「川瀬巴水と茨城県、そして本学園との深い関係」を解説しました。巴水は近代風景版画の第一人者であり、スティーブ・ジョブズ氏をはじめとした海外の愛好家が多いことでも知られています。巴水は「旅の版画家」という異名を持ち、1900年代前半の日本各地の情景を、数多くの版画などに残しました。都道府県別にみると、茨城県内の風景を題材にした作品が全国で5番目に多いことに驚かされます。そのなかには、当時の茨城キリスト教学園を描いた作品も含まれます。
林氏の講演は、会場に投影された巴水作品(林氏所蔵)を解説していく形で行われました。林氏も、「巴水は茨城の風景をずいぶん描いているが、それがまた傑作に富む」と評しています。巴水は、スポンサーである画廊や企業の依頼で、日本の名所旧跡を多くの版画に描いています。こうした作品は海外に多数輸出されましたが、実は傑作が少ないそうです。その一方で、巴水が本当に描きたかったのは、失われつつある日本の情景「もののあはれ」でした。茨城県は名所旧跡こそ少ないものの、「もののあはれ」を感じさせる美景が多く、このことが巴水を茨城県に惹きつけた理由であろうとのことでした。150名の聴衆は、林氏の確かな知識とユーモアあふれる語り口、そして美しい巴水作品に魅了されました。