茨城キリスト教大学

2023年度学生プロジェクト成果発表会を開催しました(報告)

「学生プロジェクト」とは、日立市と茨城キリスト教大学連携事業の一環として、平成20年度から実施しているもので、学生が、地域の課題解決や活性化方策などに関するテーマを設定し、調査研究を行う取り組みです。

2023年度は、4つのグループが「学生プロジェクト」に応募し、それぞれのテーマで調査研究を進めました。
当日は数年ぶりに一般の方にもお越しいただき、学生の提案を聞いていただきました。

代表挨拶

日立市 小川 春樹市長

小川市長は挨拶冒頭で、能登半島地震で被災された皆様へのお見舞いの言葉と、日立市でも業者とともに現地での支援を行っている現状を述べ、1日も早い復興の祈りを捧げた。
その後、大学と連携協定を締結して以降、市のまちづくりに本学教員が多く関わっている点、特に、上野学長に日立市総合計画の策定後の成果や振り返りをする委員会の長として協力をいただいている点について感謝の言葉をいただいた。
また、本学学生の活動については、昨年度の学生プロジェクトチームの「まちのコイン」(今年市が運用開始)の提案が市政の参考になったことや、茨城DC(デスティネーションキャンペーン)事業に参加の産学連携プロジェクトが日立市産のPRとして鯖そぼろバーガーを考案したことについても評価いただいた。
その他、昨年逝去されたローガン・ファックス氏(元学園総長・日立市名誉市民)や本学が4月に開設する未来教養学環についても触れ、学園や大学の「これからの未来を担う人材」の教育に期待していることを述べて挨拶を閉じた。
 

本学 上野 尚美学長

上野学長は、学生プロジェクトが今年15年目を迎え、その半分以上、参加させていただいていることを報告。指導教員として参加した経験もあり、学生がこのプロジェクトと通じて日立市の取り組みや課題を知り、時間をかけて検討を重ね、柔軟な発想で解決案を提案していく姿を頼もしく思うと感想を述べた。
また、小川市長も触れられた未来教養学環について説明。能登半島地震や羽田空港の事故など、立て続けに起きている予測不可能な出来事からも、学環の開設はこういったVUCA(予測困難で不確実、複雑で曖昧な世の中)の中で課題を発見し、未来を切り開いていく、特に地域の課題解決のために考えられる人材教育を意図するところであると熱弁。
本学も、日立市に立地する大学として日立市の課題は重要な課題であると認識しており、総合計画の委員として自身も学んでいる最中であると述べたうえで、本日の学生たちの発表を楽しみに、指導にあたった教員や運営に携わるすべての方に感謝の意を表し、挨拶の言葉とした。

学生プロジェクト成果発表会の様子(2024年2月24日実施)

シン・ヒタチコウホウ-記憶に残る魅力的な広報

プロジェクト提案:

発 表 者:経営学部 経営学科 3年次 学生12名
 
指 導 教 員:申 美花(経営学部 経営学科 教授)

提案内容

課  題:日立市は既存の広報媒体が充実しているが、認知度が低い

目  標:記憶に残る魅力的な広報(日立市のファンづくりに繋がり、今までにない新しい広報活動、世界中の人に日立市を知ってもらう)

提  案:シン・ヒタチコウホウ(=日立市公認インフルエンサーを作る)

提案効果インフルエンサーによる魅力発信から閲覧数の増加に繋がり、交流人口も増加する

質疑応答

質問:募集するインフルエンサーの3名はそれぞれがアカウントを持ち、日立市公認となってから新しいアカウントを作るのか。(日立市議会議員様より)
回答:その認識で問題ない。

質問:なぜSNSの媒体がインスタグラムのみなのか。(日立市議会議員様より)
回答:それぞれのSNSの特性を考慮した上である。インスタグラムは投稿・ショートムービー・DMも可能なアプリであることと、利用年齢層を検討した結果。

質問:インフルエンサーへの返礼品についてもう少し詳しく教えて欲しい。(日立市議会議員様より)
回答:市の公認インフルエンサーというブランドに加え、日立市の特産品を返礼することでより市への愛着を高めることを想定。インフルエンサー活動で収益が出る場合は金銭的報酬等も検討している。


指導教員講評

今回の提案は、経営学の「弱いつながりの強さ理論(SWT理論)」にも基づいている。つながりの弱い方がもっとイノベーション、変化を起こしやすいということである。例として、企業で同じ会社やチームで検討をするよりも、異業種交流会の方が革新的アイデアが出るといったもの。ある有名なインフルエンサーは企業の新商品が出るたびにYoutubeで発信していたところ、その企業はそのインフルエンサーを社外取締役に任命し、更に事業を広げた。そういったエピソードからも、企業の成功例はヒントになるのではないか。
 

We love日立~若者がずっと住みたいまちづくり~

プロジェクト提案:

発 表 者:文学部 児童教育学科 4年次 学生7名
 
指 導 教 員:中島 美那子 (文学部 児童教育学科 教授)

提案内容

課  題:日立市は若者世代の市外転出が多い。身内が近くにいる想定の子育て支援となっている

目  標:若者がずっと住みたい市になる

提  案:
・産業支援センターのコーディネーターや子育て中の方、企業の経営者等で構成した座談会で意見交換
・産業支援センターに女性コーディネーターの採用

提案効果「だれもが自分のやりたいことができるまち・多様な生き方・考え方を歓迎するまち」にする

質疑応答

質 問:この研究に入る前から日立市の子育て支援の状況をどの程度知っていたか。(日立市職員様より)
回 答:日立市で育ったことで、ある程度は知ってた(代表者)

質 問:「男が働くまち」という表現をされていたが、今の皆さんの環境、周囲はジェンダー平等だと感じているか。(日立市職員様より)
回答1:平等か否かは分からない。
回答2:平等になってきている場面も多くなってきていると思う。指導教員がジェンダーのことに関する専門家であるため、様々な話を聞いて少しずつ知識が身についてきているところであるが、その機会がなければジェンダーの視点は身につかなかったと思う。
回答3:私もジェンダーに関する授業を履修したり、教員の話を聞いたりしたことで違和感として感じていたことが、その後、ジェンダーギャップであったと気が付いた瞬間が何度もあった。
回答4:私もジェンダーと平等という授業を受けるまでは認識があまりなかったが、ジェンダーギャップは実は身近になることを知った。社会全体でみると広まっていないのではないかと感じている。
回答5:ジェンダーという言葉自体は知っていたが、教員からの話を聞くうちに平等になってきた部分と足りていない部分があることを感じ始めた。

指導教員講評

質疑応答で学生たちが自身の名前を出してジェンダーの専門家と表現しているが、自身がジェンダー平等に興味を持ったのは「子どもはお母さんだけが育てたら幸せになるのか」という子育ての観点での疑問を持ったことから。今日の学生たちの発表を聞いた皆様は、母親がフルタイム等で仕事をする場合、子どもがちゃんと育たないと思われた方もいるかもしれないが、発達心理学の世界では、子どもがよりよく育つために必要なこととして、母親が一緒にいることではなく、短時間でも良いから子どもといる時間を大切にする、自分自身が人生に満足していることを感じていることが挙げられている(科学的根拠もある)。
今日はこれまでの座談会に来て下さった市民の方もお越しくださっているため、今後も日立市の方で引き続き実施してくれたらと思う。
 

子育て支援による女性・若者転出防止策の提案

プロジェクト提案:

発 表 者:経営学部 経営学科 3年次 学生10名
 
指 導 教 員:申 美花 (経営学部 経営学科 教授)

提案内容

課  題:日立市は女性の20~24歳の市外転出が非常に多い

目  標:
一度転出した方もUターン・Iターン・Jターンで日立市に住み続けてもらう

提  案:
日立市かがやき応援団の形成(将来の若者(小中学生)と母親である女性が済みやすい地域コミュニティ)

提案効果:
日立市で家庭・学校に次ぐ「第三の居場所」ができる

質疑応答

質問:市内交流センターで子ども食堂を運営していくとの提案であったが、その他にも検討した場所があれば教えて欲しい。
回答:市役所とのつながりのある場として交流センターを提案したが、以前の聞き取り調査でも「空き家」は怖いと思われているというお話を伺ったため、空き家を活用してみんなの過ごしやすい空間が作れたら良いのではないかという意見はあった。

質問:運営スタッフの不足を解消するために、広報力の強化を挙げていたが、もう少し詳しく聞きたい。
回答:子ども食堂は運営スタッフのインタビューで活動者が少ないということを伺ったため、常時運営をすることを想定するために、スタッフの募集をし続けることが必要だと思った。
 

指導教員講評

この学生プロジェクトとは違った話題だが、自身が尊敬している矢野博丈氏(ダイソーの創業者)が先日逝去された。この方は、広島県で大きなトラック1台に雑貨を積み、販売を開始したのだが、それが今では世界25カ国、日本と海外を合わせると5,350店舗に拡大した。世界も不景気ということもあり、これからもすごく伸びることが予想される企業である。その手腕もそうだが、矢野氏が生前に話していた「恵まれない幸せ 恵まれる不幸せ」という言葉に、自身は大変深い意味を持っていると感じた。確かに、恵まれている人は努力をしないという視点は理解できる。
このエピソードの話をした理由は、このチームは提案内容等がなかなかまとまらず、途中でタイトルも変更になった。指導教員として一時は発表の取りやめも考えたが、学生や周りの方が最後まで諦めずに取り組んだ。努力をし続けた学生たちに拍手を送りたい。

障害のある人の生活から考える日立らしい地域資源の発信に関する提案

プロジェクト提案:

発 表 者:生活科学部 心理福祉学科 4年次 学生8名、3年次 学生9名
 
指 導 教 員:藤島 稔弘 (生活科学部 心理福祉学科 教授)

提案内容

提案A/災害を念頭に置いた障がい理解の促進に関する提案
課  題:障がいを持つ方は移動(行動)に難しさがある
目  標:障がいのある方への理解が進み、住民同士で支え合うことで災害時でも対処がスムーズになる
提  案:低学年時から日立わくわくすごろく(障がいの内容やハザードマップの理解などの促進)の実施
提案効果:楽しみながら障がいについて学び、障がいを柔軟に捉える

提案B/障がいのある子どもたちの活動の場を広げるための提案
課  題:障がいのある子どもたちは社会参加の場が少ない
目  標:子どもたちの成長や発達の機会と障がい理解を促進する機会を増やす
提  案:Let's新世界~みんなで楽しむわくわく野外活動(キャンプ活動・モノづくり活動、スポーツ活動)の実施
提案効果:障がいのある子どもの自立促進、社会性・自己肯定感の向上、家族のレスパイトケア、障がいの有無関係なくお互いを理解する機会となる

提案C/障がい者の活動の場をアピールする提案
課  題:障害者は活動場所やネットワークが閉鎖的で広報が行き届かず、市民との交流が少ない
目  標:障がい者のできることを発信し、より多くの人に知ってもらう。新しい利用者が増えるきっかけとなる
提  案:就労継続支援B型事業所の施設外での販売(学校や商業施設での販売)
提案効果:事業所同士の関わりの場、利用者の社会経験、市民との関わりの増加、新しい利用者獲得が見込める

質疑応答等

助言:日立市災害時のすごろくは有用だと思う反面、低学年に障がいのある方への理解と災害時の対応の両方を盛り込むのは少し多い気がする。まずは障がい理解を進めるテーマ、次に災害時の支援のテーマと、ステップを踏んだ形の方が有用であると感じる。(日立市職員様より)

助言:提案のみんなで楽しむキャンプ活動等について、市のきららの里等の公共施設を活用する取組、有効だと思う。(日立市職員様より)

質問:現在、事業所に自助努力を求めており、事業所とともに活動を進めるようにしているが、商業施設での販売活動のイベント自体の運営は行政が行うという提案について具体的なイメージを教えて欲しい。(日立市職員様より)
回答:商業施設との連絡調整、イベントの広報等を行政に行っていただきたいと思っている。

指導教員講評

今回の提案のテーマは、昨年度の学生プロジェクトが終了した3月から4年生を中心に検討を重ねてきた。障がいのある方について取り上げているが、実は学生たちが提案するもののベースとなったのは「まちづくり」であり、指導教員として学生たちがこのプロジェクトを通じて伝えたかったことを考察してみたい。戦後すぐ障がい者の福祉や教育の先駆者である糸賀一雄氏の言葉で「この子らを世の光に」という言葉がある。これは「光が当たっていない障がいのある子に光をあててほしい」ということでなく、「障がいのある子たちが世の光」という意味で言葉を残している。学生はこれまでの実習の中で、施設の職員やボランティアの熱意から、障がいのある方々、子どもたちや介護サービスを受ける高齢者の方は、支援を受けることによって地域の中で輝いて存在している、ということを体験を通じて気が付いた。そして、その気づきは、その支援を受けて生活するそういった方々が地域の中で安心して生活をしていること自体が地域の財産なのではないか。地域の財産や資源としてアピールすることが地域のまちづくりに繋がっていくのではないかと考えたと思っている。福祉の教員としてそういった視点で捉え、研究した学生を誇りに思う。

プレゼン前の学生たち 
プレゼン中
日立市長より感謝状をいただきました 
ケーブルテレビJ-WAYさんの取材を受けました

次年度も日立市との連携事業として学生プロジェクトに取り組んでいきます。

 プロジェクトに参加された学生の皆さん、指導教員の先生方、お疲れ様でした。