茨城キリスト教大学

【COC+事業】「点字つき さわって読む絵本のおもしろさ!」(6/24開催報告)

見えない人も見える人も楽しめる「点字つきさわる絵本」の出版・普及に努める現在までの活動を振り返りながら、点字つきさわって読む絵本について考える90分の講演会

2017年6月24日土曜日午後1時30分より3時まで、点字つき絵本の出版と普及を考える会の、岩田美津子さん(てんやく絵本ふれあい文庫代表)と北川吉隆さん(小学館)、千葉美香さん(偕成社)、管野裕美さん(福音館書店)の3人の編集者をお招きして、一般市民約60人、学生・教職員約80人がお話を伺いました。

てんやく絵本ふれあい文庫代表 岩田 美津子さん
てんやく絵本ふれあい文庫代表 岩田 美津子さん
左:偕成社 編集部 千葉 美香さん
右:福音館書店 書籍編集部 管野 裕美さん
全盲の岩田さんは、40年ほど前、幼い息子さんの「お母さん、本読んで!」の声に応えたいと、友だちに相談しながら3年がかりで「てんやく絵本」を作りだします。

さらに、購買者数が限られ、制作費も嵩む点字つきさわる絵本を広めるために、こぐま社編集部の関谷裕子さんと相談し、それまで点字つき絵本を出版した数社が、どんな思いでどんな工夫をしたか意見を交換する場として、2002年に「点字つき絵本の出版と普及を考える会」を設立します。

普段はライバル同士の複数の出版社や印刷会社・書店・盲支援学校、大学の教員・絵本作家など、さまざまな立場の人が個人として参加し、年2回小学館の会議室に集まり、岩田さんの司会で率直に意見・情報交換を行う場があることで、点字つきさわる絵本の出版を進める知恵が共有・蓄積されていきました。

「てんやく絵本」は、透明の塩ビシートに文章を点訳して活字部分に貼り、絵も同じシートで型を切り抜き、市販の絵本に同様に貼った手作りの絵本です。

岩田さんは、100冊余りてんやく絵本が出来た1984年に、目の見えないお母さんがわが子と絵本を楽しめるように、郵送でてんやく絵本を貸し出す「点訳絵本の会 岩田文庫」を自宅に開設、郵政省に働きかけ3年後にはてんやく絵本の郵送料無料化を実現します。

この活動の中で、点字のついた絵本を必要とする人が近くの図書館や書店で入手できるようにしたいと考えるようになった岩田さんは、見えない人だけでなく見える人にとっても楽しい質の高い絵本を作りたいと、96年に作家樋口通子氏とこぐま社の協力を得て、国内初の点字つき絵本『チョキチョキチョッキン』を出版します。
チョキチョキチョッキン 
さらに、購買者数が限られ、制作費も嵩む点字つきさわる絵本を広めるために、こぐま社編集部の関谷裕子さんと相談し、それまで点字つき絵本を出版した数社が、どんな思いでどんな工夫をしたか意見を交換する場として、2002年に「点字つき絵本の出版と普及を考える会」を設立します。普段はライバル同士の複数の出版社や印刷会社・書店・盲支援学校、大学の教員・絵本作家など、さまざまな立場の人が個人として参加し、年2回小学館の会議室に集まり、岩田さんの司会で率直に意見・情報交換を行う場があることで、点字つきさわる絵本の出版を進める知恵が共有・蓄積されていきました。

会では2006年に出版各社へのアンケートをまとめ「点字つき絵本・さわる絵本リスト」を制作(最新版は第5版)。 

点字つき絵本・さわる絵本リスト

『きかんしゃトーマス なかまがいっぱい』(小学館)、『これ、なあに?』『ちびまるのぼうけん』『はらぺこあおむし』(偕成社)などの点字つきさわる絵本制作を通して、「見ること」を「さわること」に翻訳する技法が次第に蓄積され、さわって読むおもしろさが発見されていきます。 

きかんしゃトーマス
なかまがいっぱい
これ、なあに? ちびまるのぼうけん はらぺこあおむし
 
2013年には会創設10周年企画として、日本の印刷・製本技術によって生み出された樹脂インク印刷・蛇腹製本で、ロングセラー絵本『ノンタンじどうしゃぶっぶー』(偕成社)『こぐまちゃんとどうぶつえん』(こぐま社)、オリジナル作品『さわるめいろ』(小学館)の三冊同時出版を実現。さらに、合紙製本の技術を応用して点字つきさわる絵本『ぐりとぐら』(福音館書店)が出版されて話題になります。
 
 
ノンタン
じどうしゃぶっぶー
こぐまちゃんと
どうぶつえん
さわるめいろ ぐりとぐら
 

 

昨年から今年にかけて、『ぞうくんのさんぽ』(福音館書店)、『じゃあじゃあびりびり』(偕成社)、『あらしのよるに』(講談社)といったロングセラー絵本、『かず』『かたち』(ポプラ社)『さわってたのしむどうぶつずかん』(BL出版)などの翻訳作品が、相次いで出版され、さわって読むおもしろさが見えない人にも見える人にも共有される土壌が、漸く整いつつあります。
 
ぞうくんの
さんぽ
じゃあじゃあ
びりびり
あらしのよるに かず
かたち
どうぶつずかん
 
講演会は、点字つきさわって読む絵本出版の歴史をたどり、絵本について改めて考える機会になりました。岩田美津子さんという、人をつなぎ動かす傑出した力をお持ちの方の働きかけに応え、編集者や絵本作家・デザイナー、印刷・製本者、書店員などが知恵を出しあい、また、盲支援学校などの子どもの現場からも協力を得て、長年協働して「点字つき さわって読む絵本のおもしろさ」を発見し、広めてきた会の活動を伺い、新しいものを世の中に生み出す「仕事」に触れた思いがしました。絵本に心を寄せる人たちと、人と人が出会って幸せに生きるために必要な働きについて考えた豊かな午後でした。

講演会の感想

一般の方からの感想

  • 岩田美津子さんのパワフルな活動ぶり、お話ぶりに心を動かされました。絵本製作のことを詳しくお話しいただき、興味深く伺いました。製作費に補助金が出ないものかと考えました。
  • 各出版社の方が会社の垣根を越えて、よい本を作ろうとなさっていることがよくわかりました。岩田さんのお人柄が関係者をつなげているのだと思います。私も図書館員として出版を支えていければ幸いです。
  • 最近点訳の勉強をはじめたところなので、岩田先生にお会いできて感激しています。私も、一冊でもてんやく絵本を作ってみたいと思いました。点字つき絵本を地元の図書館にリクエストします。
  • 今まで、なぜ点字つき絵本では、原作の絵と樹脂インクで印刷した線描がずれているのか疑問に思っていましたが、触ってよく解るようにという配慮があったと、よく分かりました。
  • 公共図書館で、『はらぺこあおむし』や『ぐりとぐら』などの点字つきさわる絵本を借りて息子と楽しんでいます。『はらぺこあおむし』の最後に出てくる蝶の羽の色が、本によって違うことは、借りる図書館によって違っていたので知っていましたが、インドで手作りされ、輸入後一冊一冊手直しされたと聞いて驚きました。点字つきさわる絵本を、見える子も興味深く楽しんでいます。
  • 4歳の娘は全盲です。岩田さんのお話だけでなく、毎晩娘に読んでやっている本がどのように作られているか聞けて、驚いたと同時に本当に楽しかった、託児をお願いして参加できてよかった!!
  • 初めて聞くことばかりで、知らないということは自分の見方を狭めると感じた。職場の同僚保育者や子どもたち、保護者にも、点字つきさわる絵本のことを伝えていきたい。

学生の感想

  • 見えない人も絵本を必要としており、「見える人にとっても楽しい、質の高い絵本」を出すために、普段はライバルでも手を取り合って取り組んだ成果が点字つきさわる絵本なのだということ、その熱意に感動した。私たちが何かを成し遂げようとする時にも、人との出会いとつながりがなくてはならないものなのだろうと感じた。(幼児保育専攻3年)
  • 普段何気なく見て楽しんでいる絵本だが、見えない人は絵の奥行や重なり合いが分かりにくいことなどを知り、物語を壊さないように配慮しながら、補助の文をつけたり、大きさやさわり心地を工夫してさわってたのしい絵本を作っていったことを知った。作り手の細かな配慮が点字つきさわる絵本を創りだしていったところが、すごいと思った。(幼児保育専攻3年)
  • 講演の前に展示室の絵本を見て「なぜ絵と樹脂インクの線がずれているのだろう?」と疑問に思ったが、見えない人が触って空間を感じるための「絵の翻訳」(山脇百合子さんの言葉)がなされていると伺って自分がいかに目に頼っているか改めて感じた。(幼児保育専攻3年)
  • 点字つきさわる絵本で、初めて『はらぺこあおむし』に触れた盲学校の子どもたちが、お話は知っていたけれど「形が分かった!」「自分で触って分かった!」と言ったときの感激を思うと、点字つきさわる絵本のすばらしさが伝わってきた。(幼児保育専攻3年)
  • 犬や猫ではなく、「しましまくん」「ざらざらちゃん」など、触った感触がキャラクターの名前になっている『これ なあに?』は、感触が人の性格を連想させて、読んでみたいと思った。(児童教育学科2年)
  • 地元の図書館にも『ニャロメをさがせ!』や『さわってごらん だれのかお?』などの点字つき絵本が置いてあった。小さい頃は目の不自由な方のための絵本と思わず、でこぼこを触るのが楽しかったという記憶がある。この講演を聞いた私たちが図書館や書店で「点字つき絵本はありませんか?」と、一言伝えるだけでも、何か小さな変化が起こるのではないかと感じた。(幼児保育専攻3年)
  • 将来保育者になって目の不自由な子どもを担任したとき、点字つき触る絵本を取り入れて、その子たちの世界を広げる手伝いがしたい。また、次に実習に出る時には、触る絵本を持って行って子どもと読んでみたい。(幼児保育専攻3年)
  • 岩田さんが著書に貼って下さった点字シールのメッセージ「あきらめないで また明日も」「ともに絵本の よろこびを」「出会い 発見 感動」「生まれたからには生きてゆく 同じことなら、笛吹いて」などのことばには、深い思いが込められていることを感じた。(幼児保育専攻3年)
  • 自分が家族と絵本を楽しんだ経験から、絵本は親や兄弟など家族の交流を深めるものであると実感しているので、「点字つき絵本は視覚障害のある人のもの」ではなく、見える人も見えない人も一緒に楽しめる絵本を図書館に置くという考えが「当たり前」なのだと納得した。(心理福祉学科2年)

また、講演会に先立ち、24日午前中は、岩田美津子さんはじめ4人の講師の他、水戸盲学校より田名見梨㮈さん、吉澤大樹さんにご協力頂き、点字を打ち、絵の型にシートを切って貼り「てんやく絵本」の1ページを作るワークショップを行い、学生28名が参加しました。

会場の様子

学生の感想

  • 点字をはじめて打ってみて、文字をはっきり分かりやすく打つ力加減の難しさが分かりました。(児童教育学科2年)
  • イラストは各パーツがただ貼ってあるのではなく、シールを張る順番で絵の雰囲気が変わり、特徴が分かりやすいよう、触ってイラストを楽しめるよう配慮されていることに気づきました。(児童教育学科3年)
  • 指先だけで点字を読み、くまちゃんの足のずれまで指摘しまう、訓練を受けた方の感覚の鋭さに驚き、てんやく絵本が、どれほど丁寧に作られているか分かりました。(心理福祉学科1年)
  • 「表情で反応されても私には何も解らないから、みなさん声に出して答えてください」という岩田先生のことばに、ハッとしました。普段、私たちは無言で頷くことをよくしますが、目の見えない方にそれをしても全く意味がないと知り、ことばやコミュニケーションの繊細さを実感、丁寧に伝えなければいけないと感じました。(心理福祉学科2年)