漱石の作品には、一人の女性を巡って二人の男性がせめぎ合うという三角関係が繰り返し描かれています。
もとより文学作品は虚構と現実とのあわいに成立するものです。
したがって、漱石が創り出した作品の中から彼の青春期における切実な恋愛体験(原体験)と登場人物の原型(モデル)との関係を読み解いていくことは決して容易なことではありません。
しかし、どのような想像力によって創り出された虚構の作品にあっても、その縦糸には明らかな具体的事実、実体験が存在することを否定することはできません。このような作品の縦糸とも言うべき現実世界に起こった出来事を紡ぎ出さずして、作品のモチーフにもテーマにも迫ることは出来ないはずです。
そこで、今回の講座では、漱石の青春期における原体験と作品に描かれている登場人物の原型(モデル)とに考察を巡らし、また、舞台空間として「すべてが破壊され、建設され」て西欧化されつつあった明治40年前後の時代背景をも併せて読み解いていこうと思います。