茨城キリスト教大学

2018年度入学式 学長式辞

茨城キリスト教学園のキャンパスには、何種類もの桜が植えられており、早咲きのものから遅咲きのものまで、長い期間楽しむことができます。本日この自然溢れるキャンパスで学びの一歩を踏み出す皆さん、ご入学おめでとうございます。ご同席のご家族・ご関係の皆様にも、茨城キリスト教大学を代表して、心よりお祝いと歓迎のご挨拶を申し上げます。また、ご来賓の皆様、新年度の大変お忙しい中、ご参列いただき、誠にありがとうございます。

第二次世界大戦後間もない1947年に創立された茨城キリスト教学園は、昨年創立70周年を迎えました。夜間の英語学校、そして幼稚園からスタートしたこの学園は、創立当初から「綜合大学」の設立を目指していましたが、その構想が実現に至るには20年の歳月を要しました。当初、文学部のみの単科大学として誕生した茨城キリスト教大学は、2000年に生活科学部、2004年に看護学部、そして東日本大震災のあった2011年に経営学部が加わり、4つの学部、そして、大学院の3研究科を擁する文字通りの総合大学に発展してきました。開設時の入学定員はわずか100名で、一つの教室で入学式ができるほどでしたが、短期大学との統合を経て現在の学部入学定員は550名となっており、入学式も、今ではこの講堂で午前の部・午後の部と2回に分けて実施するようになっています。昨年創立50周年を迎えたこの大学の歩みの大半は、地域社会のニーズに応えるべく、教育研究のプログラムを拡大してきた歴史であるとも言えるでしょう。

しかしながら、この大学がどのような学びを実現すべきかを検討するにあたって、国公立大学とは異なった視点が用いられてきたことを触れておかねばなりません。私立学校は、公立学校とは異なり、「建学の精神」に基づいて設立されています。昨年、創立70周年を迎えたのを機に、茨城キリスト教学園は、建学の精神を「スクールモットー」という形でシンプルに表現することとしました。それは、Peace, Truth, LOVE, 平和、真理、愛というものです。多くの犠牲を招く戦争を2度と起こしてはならないという創設者の祈りに応え、世界の平和につながる「心の平和」を養う教育をこの学園は日々実践しています。また、時に「常識」と言われるものをも疑い、真理を探求していくことも、本学の大きな使命です。そして、「隣人を、自分のように愛しなさい」という聖書の言葉にもあるように、他者に対して愛のこもった眼差しで接することができる人を育てることも、本学は大切にしています。

さて、このような歴史と建学の精神を持ったこの大学でこれから学ぼうとする皆さんに、高校までの学びと大学での学びの違いについて触れておきたいと思います。一言で言って、高校までは「問題」の解決に取り組んできた皆さんが、今日からは大学で様々な「課題」に取り組むことになるということです。では、「問題」と「課題」の違いとは何でしょうか?京都市立芸術大学学長で、「朝日新聞」1面の「折々のことば」の連載で知られる哲学者の鷲田清一さんは、「問題というのは、解決されねばならないもの、除去されねばならないもので、それをなしにすることが解決と言われる」と述べています。一方、課題については、「除去すべきものではなくて、それに取り組むこと自体に意味がある」と言っています。主として「正解」のある問題に取り組んできたこれまでと違って、正解が何かはわからないけれど、取り組むことで現状を変えることができるかもしれない課題に向き合っていくことが、大学での学びなのです。最近連載再開が決まったという『名探偵コナン』の有名なセリフに、「真実はいつもひとつ!」というものがあります。コナンが取り組む事件は、鷲田さんの区別で言うと「問題」にあたるので、「ひとつ」の「真実」を求めているのでしょう。けれども大学で取り組む「課題」は、なかなかそうはいきません。例えば日本、特に地方を取り巻く少子高齢化・人口減少という課題に対して、解決策として「ひとつの真実」があるでしょうか?もしそれがあり、既に発見されているのであれば、地方の人口減少にはとっくに歯止めがかかっているはずです。「唯一の正解」とか、「特効薬」のようなものが存在しないのが、大学で皆さんが取り組む課題なのです。

このように、ともすれば途方に暮れそうな課題に立ち向かう際、どのようなやり方があるのでしょうか?大学での学びの実践として、私は「読む」・「聴く」・「動く」の3つの要素を挙げておきたいと思います。まずは「読む」ということ。先の見えないように思われる課題に対しても、先人たちはそれぞれに取り組み、その記録を残していることが多いのです。大学では高校までのような「検定教科書」は存在しません。授業で紹介される本に留まらず、図書館、あるいは書店に積極的に出入りして、どんどん「読む」ことをお勧めします。次に「聴く」ということ。これから皆さんに最も身近な存在となる我々大学の教職員に、授業内外を問わず、積極的に「聴く」姿勢がとても重要です。そして「動く」ということ。時には大学のキャンパスを飛び出し、地域や海外での研修などに参加し、身体を動かして学ぶことで、「読む」・「聴く」だけでは捉えることができなかったことを身体で感じ取れるようになることもあります。

「読む」、そして「聴く」機会はもちろんのこと、この大学は皆さんが「動いて学ぶ」機会も豊富に提供しています。地域社会での実習では、地域の人々とのつながりを通して、地域課題を実感することができます。ボランティアやインターンシップでは、建学の精神の「隣人愛」を実行に移したり、卒業後の人生を考える機会を得たりすることができます。また、豊富な海外研修プログラムや、本学に留学している学生たちとの交流を通じて、グローバルなつながりを実感し、外国語の能力だけでなく、異文化に対する理解を深め、チャレンジ精神を養うこともできます。「動いて学ぶ」機会に参加すればするほど、皆さんは人間的にも大きな成長を遂げることができるでしょう。

この学園の70年、そしてこの大学の50年の歴史を作ってきた先人たちは、数々の困難に直面しながらも、学園・大学を大きく発展させ、そして巣立っていった後も日本ばかりでなく、世界の各地で活躍しています。皆さんも後に続いてください。貪欲に読み、聴き、そして動いて、4年後の今頃には、全身の細胞が入れ替わるほどの大きな成長を遂げて、皆さんがこのキャンパスを巣立っていくことを願って、私の式辞を終えることにします。

改めまして、皆さん、ご入学おめでとうございます。

2018年4月3日
茨城キリスト教大学
学長 東海林 宏司