茨城キリスト教大学

2016年度学位授与式 学長式辞

2016年度学位授与式を迎えるにあたり、はじめに、本日卒業・修了を迎える皆様ならびにご列席のご家族・ご関係の皆様に対し、茨城キリスト教大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、ご来賓の皆様におかれましては、ご多忙の中のご参列、誠にありがとうございます。

さて、卒業・修了する皆さんに向けての本日の私からのメッセージは、「持続可能な社会を作るために、3つのLifeを大切にしよう」というものです。2011年の東日本大震災は、地震・津波・原発事故というトリプル災害を日本にもたらし、その傷跡は6年以上経過した今でも癒やされてはいません。一歩間違えば、東日本のみならず、日本という国そのものの存立が危ぶまれた大災害は、我が国のみならず、世界に大きな教訓を残しました。また、東日本大震災より遥か前から問題視されてきた地球温暖化に伴う気候変動は、数々の災害を各地にもたらし、経済的成長を偏重する社会に、警鐘を鳴らし続けています。

人類がその「叡智」によって生み出したはずの科学技術や経済活動によって、人類そのものの存在が脅かされるとしたら、こんなに不幸なことはありません。21世紀に生きる我々にとって、「持続可能な社会」のあり方を考えることは大きな課題であり、それは大学という教育研究機関の重要な使命でもあるのです。大学で学び、本日社会に飛び立っていく皆さんには、持続可能な社会作りの一員になっていただくことを願っています。

皆さんは「Life」という英語を聞いて、どんな日本語が思い浮かぶでしょうか?人によって答えは様々ではないかと思います。まず第一に、「生命」について考えてみましょう。我々がこの世に与えられた生命は、かけがえのないものです。持続可能な社会を作るにあたって、自らの生命を守り、その大切さを考えるのはもちろんのこと、他者の生命を如何にして守るかを考え、実践していくことが欠かせないのは言うまでもありません。

「Life」は「生活」とも訳されます。これが第二のLifeです。生活とは、「1日の生活」といった短いスパンから、これまで皆さんが送ってきた「学生生活」、そしてこれから皆さんが送る「社会人生活」といったある程度の長さに至るまで、その期間は様々です。日々の生活基盤を確立することができなければ、ボランティアなどに取り組み、社会に貢献する余裕はなかなか生まれません。また、「3つのR」と言われるReduce、Reuse、Recycleを日々の生活の中で実践していくことが、環境保全や、持続可能な社会作りの一歩にもつながります。

生命、生活に続く第三のLifeは「人生」です。世界的に平均寿命は延び、中でも日本人の平均寿命は男女共に80歳を超えています。20代前半の皆さんは、これから今までの3倍程度の長い年月を送ることになるのです。平均寿命という概念に加えて、「健康寿命」という考え方があるのを聞いたことがあるでしょうか?単に長生きするだけでなく、心身共に健康で長生きすることが、持続可能な社会の構成員であり続けるためには大切なことなのです。

今から60年以上も前にアメリカで出版され、現在でも世界中で読み続けられている小説、J. D. SalingerのThe Catcher in the Ryeという作品があります。日本では『ライ麦畑でつかまえて』という題で長く知られており、21世紀になり村上春樹によって新たに翻訳され、また注目を集めるようになりました。この作品の中に、次のような一節があります。成績不良により、高校を退学処分になってしまった主人公のホールデン・コールフィールドは、学校を去る前に歴史担当のスペンサー先生に挨拶に行きます。スペンサー先生は、校長の考えを代弁するような形で、ホールデンに次のように言います。

「人生とはゲームなんだよ、あーむ。人生とは実にルールに従ってプレイせにゃならんゲームなんだ」

この言葉に対して、ホールデンは面と向かって反発はしませんが、心の中では大きな違和感を覚えます。これを若さゆえの反抗と単純に片付けてしまっていいのでしょうか?世の中は確かに「ルール」に満ち溢れています。その中には交通ルールなど、安心・安全な生活を送るために万人が守る必要があるものもあります。しかしながら、高齢者と運転免許のあり方などのように、時代の変動と共に、修正・変更を余儀なくされる交通ルールも存在します。もし人生が「ルールに従ってプレイせにゃならんゲーム」であると言い切ってしまうのならば、ルールそのものを疑い、必要ならば変えていこうというプロセスが進行するのが極めて難しくなります。

義務教育や高校までの「学習指導要領」のようなものが存在しない大学という教育機関での学びは、時にはルールそのものが存在しないように見える現象にルールを見出したり、またその逆に、これまで「当然のルール」と思われていたものに対して疑いの目を向け、「新たなルール」を提案したりといったことができるようになるための、知的訓練だったのです。このような知的訓練を受けた皆さんが今後長い人生を送るにあたって、時には「ルールそのものを疑う」精神を発揮してほしいと願っています。

さて、今年遂に茨城キリスト教大学は創立50周年、茨城キリスト教学園は創立70周年を迎えることになります。半世紀という長い年月に渡って「持続」してきたこの大学を、次の半世紀に向かって更に持続させていくよう、我々教職員は誠心誠意、取り組んでいく覚悟です。皆さんが在学している間、大学創立以来の建物であった1号館が取り壊されました。組織が持続していくにあたっては、時には「壊す」必要があるものも出てきます。一方、この3月には学生の部活動・サークル活動の新たな拠点となる新クラブハウスが建設されました。これから数年のうちに、学園の新たな正門が完成し、大甕駅の改修工事も終わり、駅から学園までのアクセスも格段に向上することになります。「壊す」もの、そして新たに「創る」もの…その歩みを重ねていきながらも、隣人愛を大切にするという建学の精神は、変わらず、頑なに守り続けていく使命を、この大学・学園は担っています。

我々教職員にとって、卒業生・修了生が訪ねてきてくれることは、この上ない喜びです。これからも我々は皆さんの良き相談相手であり続けることをお約束します。どうぞこれからも気軽にこのキャンパスを訪れてください。特に2017年度は、学園70周年・大学50周年を記念した行事も多数予定されています。明日からの日常生活の中では出会う機会が少なくなってしまう友人たちとの再会の場にもしていただければと思います。

最後に、これからの皆さんの長い人生が、幸せに満ちたものであることを願って、式辞を終えさせていただきます。改めまして、皆さん、卒業・修了おめでとうございます。

2017年3月18日
茨城キリスト教大学
学長 東海林 宏司