学校法人茨城キリスト教学園

ウクライナ出身の本学講師ジャブコ・ユリヤ先生が学園内外で講演しました。

ロシアによる侵攻が続くウクライナへの関心を高めてもらおうと、ウクライナ出身の本学講師ジャブコ・ユリヤ先生が学園内外で講演しました。ウクライナの歴史の紹介のほか、戦渦に巻き込まれた故郷の現在の様子を伝えています。

茨城キリスト教大学文学部現代英語学科 ジャブコ・ユリヤ専任講師
ウクライナ西部・リヴィウ市出身。イワン・フランコ記念リヴィウ国立大学で日本語学及び英語学を学び、同大大学院にて言語学博士号を取得。専門は社会言語学。現在、在日外国人の文化的アイデンティティを中心に研究している。



5月19日(木)には、学園キアラ館礼拝堂にて「本格的な戦争が始まったと聞いたとき」 と題し30分の奨励を行いました。学生・教職員述べ50名が参加し、ジャブコ先生の講話に耳を傾けました。


ロシアとの抗争は今に始まったわけではない

ジャブコ先生は、「ウクライナ侵攻は今に始まった話ではない」ということを強調します。なんと、1658年以降ロシアとの戦争は28回、今回の侵攻で29回目に及ぶそうです。ただし、これまでの戦争の比にならないのが今回のウクライナ侵攻であることも説明しています。これまでの戦争では比較的多くの市民の逃げ道も設けられていて、危険なのは一部の戦場の近くに住む人々だけだったそうです。それが今では、様々な主要機関が破壊され、ロシア軍に包囲されてしまっている大変危険な状況だということです。


ロシアのプロパガンダに飲まれている

これまでずっと、ロシア文化のほうが優秀だと、ロシア政府は戦略的に流し続け、多くの国家がそれを信じてきました。例えば、教育分野においても大きく引き離されていました。ウクライナ語はすでに12世紀頃までにはとうに確立されていたにもかかわらず、様々な近隣諸国に支配され、頻繁な「ウクライナ語使用禁止令」が敷かれていました。そのため、ウクライナ語の普及が著しく阻害されました。しかし、「今回のウクライナ侵攻をきっかけに、ようやく全世界が一丸となって、ロシアに向き合い、戦ってくれるようになった」とジャブコ先生は語ります。


伝えないと戦争は止まらない

このような国家犯罪に値する戦争を止めるには、「取り上げること」「事実を伝え続けること」が必要だと語ります。現在、本学を含む多くの教育機関が声明を出してくれたことは、人材を育てる場所としては大変ありがたいと感謝の言葉を述べました。 「私の祖父は第二次世界大戦の軍人だった。戦争に勝ったにもかかわらず、私たち家族には戦争のことを語ってくれなかった。でも今はその理由がよく分かる。戦争のことを話すことはとても悲しいし、辛い。でも伝えないと戦争は止まらない。」とご家族との思い出も含めてジャブコ先生は痛切な思いを吐露しました。



初めてサイレンの音を聞いた日

ジャブコ先生は講演の中で、現在のウクライナ侵攻の現状についてもありありと私たちに紹介してくれました。

「私が初めてサイレンの音を聞いたのは、母と電話したときです。その時、歴史は繰り返される…ロシアはウクライナのことを独立国家として残したくないのだと、また国民の自由と権利を剥奪したいのだ、という絶望感でいっぱいになりました。」

ジャブコ先生によれば、すでに港湾都市マリウポリをはじめとして、軍人ではない“一般人”が3万人以上亡くなっているそうです。命を落とした一般人の内200人以上は幼い子どもです。また、400人以上の子どもが怪我(身体の欠損など)をしています。

 

私たちにできること

奨励の終盤には、今年5月よりウクライナから留学しているマルタ・イリョさんにも登壇してもらい、今の私たちにできることを涙ながらに訴えます。

今この時も懸命に戦い、有効な反撃をしているウクライナ軍人を応援してください。
勝利の日が来ること、戦争がいつか終わることを信じてください。
そして、勝利を掴み取った時のウクライナの美しい姿を目に焼き付けてください。
平和な状態は紙一重、それを意識して日々の生活を噛み締めてほしいです。
 

ジャブコ先生はマルタさんを温かいまなざしで見つめ、話に耳を傾ける学生・教職員は、神妙な面持ち、涙を拭いながら…など、その表情は様々でした。

~奨励参加者の感想~
■ 戦争を他人事のように感じていましたが、実際に起きていることなのでしっかりと考えていかなければならないと思いました。(文化交流学科3年)
■ 戦争における破壊、殺戮、このような非道で残酷なことができるための大義とはなんでしょう。たとえ「憎悪」があるとしてもこれほどのことができるのでしょうか。今までの歴史においても、何度となく繰り返される戦争、侵略。独りの力ではできません。人間は誰ももっている残忍性でしょうか。そうだとしたら、未来の為にもどうしたら解決できるのでしょうか。答えを探し、行動を起こすことが大切だと思いました。ありがとうございました。
■ ウクライナは今も苦しんでいるという訴えを目の前にして辛さを感じ取ることができました。少しでも早く平和になることを願っています。(児童教育学科幼児保育専攻1年)
■ 今の自分に置き換えるととても悲惨なことがウクライナで起こっていると改めて実感したし、戦争は絶対になくなるべきだ。(現代英語学科1年)
■ 巨大国家であるロシアが不当に侵攻したというのに、物理的に防ぐこと、妨害できないことを疑問に思います。そして、いやこれ以上はいけない。 (児童教育学科幼児保育専攻1年)
■ 来てよかったと思いました。物語のように感じていたウクライナの現状が先生のおかげで現実として感じられました。ありがとうございました。(看護学科1年)



侵攻開始から90日が経った5月24日(火)、この日は日立市の茨城県県北生涯学習センター(日立市十王町)でウクライナの歴史と現状について、1時間半の講演を行いました。センターに集った一般公募者60名と、茨城キリスト教大学よりオンラインで視聴する教職員・学生40名の100名超の人数がジャブコ先生の話に耳を傾けました。
 
茨城県県北生涯学習センターの様子


オンライン会場(本学)の様子



ウクライナカラーのマスクを身につけながら、同国の歴史と、同国の繁栄を阻害してきたロシアの戦略的なプロパガンダについて丁寧に説明しました。



報道機関や一般参加者からの質問も受けます。 

Q.この90日間、友人やご家族とどんな話をしましたか?どんなご様子でしたか?

とにかく、疲れ果てています。明日何が起こるか分からないのが怖いです。今日は何もなかったな…とホッとしたのもつかの間、次の日にはミサイルが鳴るような毎日だそうです。特に、最もストレスを感じているのは子どもです。シェルターと外の行き来の繰り返し、オンライン教育が受けられる環境自体は整っている都市もありますが、子どもたちは、そもそも勉強を受ける精神状態にありません。
しかし、ウクライナ人は存外この戦争に前向きです。会話の最後には、“勝ってから○○をしたいね”というポジティブなビジョンを語り合うのです。犠牲者が出たのはウクライナですが、負けるのはロシアです。」


Q.今回のウクライナ侵攻は長期化が懸念されています。地域社会はどのような支援の手を差し伸べればいいですか?

すでに私たちは日本国民の皆さんからの支援を感じています。既に1,000人以上のウクライナ人を受け入れてくれました、これは(個人的な)想定の倍以上の人数です。本当にありがとうございます。また、日本人は「連帯感」が強いと感じます。知らない人からも“大変ですね”と声をかけていただけます。精神がつながっているので、一緒に戦っているような気分です。
「今後は、日本に既に家族がいる人や留学生以外の“日本に行ったことがない人・知り合いがいない人”も日本に救いの手を求めてくることになると思います。日本人には言語を超えたコミュニケーション力(日本語で言う“空気を読む”)があり、それだけでウクライナ人を受け入れられると思っています。避難民を助けるには、ゴミ出しなどの最低限の生活のルールを教えてあげてください。ウクライナ人は平和的、フレキシブルな人種なので、教えてくださったルールに順応します。そもそも、日本に来るというだけで、日本が大好きな人たちです。安心して受け入れてあげてください。また特に、戦争から逃げている避難民からすると、自然が多い日立市は安心できると思います。
終盤にはマルタさんも登壇し、戦争が開始した衝撃、避難生活、来日までの日々をありありと教えてくれました。
それでも日本が大好きで、日本で勉強がしたかったので留学を決意した。」と語るマルタさんに、励ましのエールの代わりとなる大きな拍手が送られました。



講演後は「経済的支援やこの戦争の事実を伝えることなど、自分にできることをやっていきたい」と強く意気込む人や、「一緒に乗り越えていきましょう」とジャブコ先生に声を掛ける人、マルタさんに日本語の勉強になるような日本の小説をプレゼントする人など、あたたかい時間が流れていました。

また、NPO法人Impactよりウクライナ人留学生への経済支援に関する募金(詳細下記参照)もいただきました。



ウクライナ人留学生への経済支援に関する募金のお願い

本学では、ウクライナの情勢に鑑み、海外提携校であるウクライナ・リヴィウ大学からの交換留学生の受け入れ人数枠を拡大するなど、避難民学生への支援を積極的に展開してまいります。戦時下にあるウクライナから日本に留学に来る場合、旅費および日本での生活費の確保が大きな課題となります。そこで、ウクライナからの交換留学生の旅費・生活費を確保すべく、皆様方に、募金へのご協力をお願いいたします。
※海外提携校との交換留学協定に基づいて本学が受け入れる留学生。交換留学生は、本学に授業料等を納めることなく、授業の受講等が可能です。