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【インタビュー】常に「やりたいこと」を描く。「求め続けて」切り拓いた日立の納豆職人の道
【インタビュー】常に「やりたいこと」を描く。「求め続けて」切り拓いた日立の納豆職人の道
日立製作所をはじめとして、ものづくりに実直な職人の地として発展してきた日立市。そんな土地で仲間と共に日々納豆作りに励むのが、10月の後期キリスト教講演会にもご登壇いただいた、(有)菊水食品・三代目職人の菊池啓司さん。熱心なクリスチャンの奥様とのご結婚を機に自らもクリスチャンの道に進まれた菊池さんが大切にしている、かつ、本学園の正門の石碑にも刻まれている「求めよ」の姿勢で臨んできた納豆づくりの歴史を深掘りさせていただきました。
菊池啓司さん
1957年2月16日、日立市生まれ。
大学卒業後、建設会社営業職を3年。
1982年、父の入院をきっかけとして退職し、父の経営する菊水納豆製造所を継ぐ。
1988年、有限会社菊水食品として法人化。
2004年、「菊水ゴールド納豆」が全国納豆鑑評会(名古屋大会)で優秀賞を受賞し、マスコミにも多く取り上げられる。
2008年、「海洋ミネラル納豆ミニ2」が、日本一旨い納豆の称号である最優秀賞『農林水産大臣賞』を受賞。その後も茨城県産黒豆納豆の「黒豊」、日立市の土産品として開発してきた「ひたちのなっとう」、「スリムはこいり娘(ひきわり娘)」、「はこいり娘(ひきわり娘)」、「なちゅらるなっとう」が受賞。水戸納豆といえば全国的に有名だが、茨城県の納豆屋で唯一、日立市の納豆屋が日本一を取り、最多の7度の受賞歴を持つ。
デザインでも茨城県知事賞を2度の受賞をはじめ、6度の受賞。海外のゴールデンピンアワード賞などの受賞歴がある。
原子力事故の風評被害、東日本大震災の工場半壊被害にも負けず、独自の納豆作りに情熱を注ぎ続けている。
新妻
本日はお時間いただきありがとうございます。後期キリスト教講演会のお話を聞いて、菊池さんの人となりは、聖句の「求めよ
※
」の文言そのものを体現されていると感じました。菊池さんのような「追求する」スタンスは、いつ頃身についたのでしょう。
※
求めなさい。そうすれば与えられます。
捜しなさい。そうすれば見つかります。
たたきなさい。そうすれば開かれます。
-マタイの福音書7章7節(新改訳第三版)
菊池さん
振り返ってみると、幼いころの環境がそうさせたのかもしれません。私は4歳から小学校に入るまで「小児ぜんそく」を患っており、入退院を繰り返していました。
私の日々の話し相手は病室の白い壁…、つまり自分自身です。
私は幼いころから常に自分自身を俯瞰し、自分に対してどのような言動を取ればいいか考えていました。ぜんそくを治すために、空気の吸い方から見直したくらいです。
新妻
長い入院生活をキッカケに自己省察し、かつ、ただ見つめ直すだけではなく結果を出すために(この場面では病に打ち勝つために)「求める」という行動を起こし続けていたんですね。では、そんな菊池さんが菊水食品の3代目となった理由と、どのように3代目としての礎を築いていったのか教えていただけますでしょうか。
菊池さん
この会社を継ぐキッカケは、私が20代前半の時に父親が病に倒れたからでした。3日だけ、考えましたね。父は職人肌で、母も含めて誰にも製造方法を教えていなくて。何もかも分からない状態で会社を継いでいいのか?できるのか?って。でも、3日が納豆の製造サイクル的に考えられるリミットだったんです。それを超えると会社に在庫が無くなってしまう。結局は「やるか、やらないか」ではなく、「やるしかない」状態でのスタートでした。
先代の培ってきた信頼のおかげで、長年のお客さまは若輩者の私にも優しく、”出来が悪い納豆でも置いて行け“って言ってくれるんですよ。でも、その言葉を聞いた時、これに甘えていたらいよいよ会社は衰退するなと思ったんです。なので、先代の(踏襲のような形の)納豆作りはしない、と決めました。
そこでやったことは、やはり、「求める」こと。”目の前の一人”が欲しがってくれるような納豆を求め続けました。
単純に、個人のニーズに合わせて味や豆の堅さ、糸の引き具合などを掛け合わせると10万通りもの納豆が出来上がります。私は、春夏秋冬、さらに、同じ季節でも年によって気象条件は違うので、結局パターン化はせず(できず)、その年のその季節ごとに最も適している納豆を創り上げました。そう言い切れるようになるまで3年かかりましたね。
新妻
すごいですね。結局納豆づくりに置ける“師”のような存在はいらっしゃったのでしょうか。
菊池さん
それはもう、過去の書物に頼るしかありませんでした。朝5時からの仕込み、昼間の製造・配達を経て、夜の発酵管理をしている合間に納豆づくりに関する本を読み漁る…というような生活でした。ここでも感じたのは「求めよ、さらば与えられん」でした。学生時代は、勉強嫌いな私ですが、いつもタイミングよく助けてくれる先生が現れてくださったおかげで、挫けずに今のキャリアを築くことができました。今回も、
理想の実現のために師を求め続ければ、人物という形ではなくてもそれは現れるんだと感じました。
また、師ではないですが、お客さまのリアルで素直な評価こそ、私に一番の気づきを与えてくれますね。
新妻
なるほど。と、言いますと?
菊池さん
例えば、3年かかって自分の納得いく、先代相当の味を再現した納豆を造れるようになったと思った直後、評価が落ちたんです。私が天狗になってしまったからですね。その時に、「納豆はただ糸を引く豆を造ればいいってわけではない」ことを思い知らされ、気を引き締め直して、個人に想いを馳せた納豆作りを心掛けるようになりました。また、私は褒められるのが大好きなんですよね。それはただ嬉しさに浸りたいわけではなく、
お客様のからの褒め言葉こそ、何物にも代えがたい説得力のある評価だからです。そのお褒めの言葉の内容を復習・反芻(はんすう)することで、より良い納豆をさらに「追い求める」ことができるんです。
元来自分自身にひたすら向き合ってきた人間なので、本音を言うと、他人にはさほど興味もなければ、面倒くさいなとさえ思ってしまっているのですが、自分に気づきや喜びを与えてくれるのもまた人間なんですよね。
新妻
確かにそうですよね、なんだかんだ人は一人では生きていけない、他者と生きていかないと繁栄しない。面白いです。そんな菊池さん、なぜそこまでに追い求めることができるのですか?時に大変だと思うことはないですか?
菊池さん
私はただ、
自分の「やりたい!」に嘘をつく人生を送りたくないし、自分が口にしたことは絶対にやり抜くと決めている
だけなんです。自分がやりたいと渇望しているものであれば、結果がいつ出るのか、それが成功するか失敗するかなんて考えは後回しになるんです。やりたいことをやれているからいいんですよ。
今の若い人は優秀だから、やる前からある程度先を見通せるんじゃないでしょうか。もしくは、行動を起こさずとも答えがそこかしこに落ちているんじゃないでしょうか。しかしそれではダメなんです。
五感をフルに使って自分自身で常に考え、行動し続けないと、それは“考えていない・理解していない“ことと一緒なんですよね。
新妻
すごく共感できます。そもそも、情報社会になって、考える前から答えが落ちている世界が当たり前になっているかもしれません。それで“知った気になっている”んですよね。やりたいことを描く、という行為すらしていない人が多いかもしれません。ゆえに「やりたいことが見つからない」と嘆く若者も多いような気がします。
菊池さん
私は常に「やりたいこと」を描いています。
そうすると、簡単に求め続けられます。階段が目の前にあったら何も考えずに登るでしょう、それと一緒です。
今まで各賞を受賞した納豆は、すべてみな“現段階では作る過程はイメージできないけど、完成形だけはハッキリと頭に思い描くことができた”ものばかり
なんです。
そうやって「やりたいこと」「ありたい姿」が明確だと、たとえどこかの過程で失敗しても、何もへこたれずに動き続けることができる。
とりあえず、できることからやり直して、失敗してしまったこともあきらめるのではなく、頭の上にいつも置いておくって感覚
ですかね。そうするとね、しかるべきタイミングで成功したりするんですよ。
私はこのような“無意識の意識”が大切だと思っています。
新妻
正に、“求め続けている”んですね!求めていないと降りてこない、その通りだと思いました。
菊池さん
人間関係でもそうですよ。たとえば、妻が何かを理由に怒っていたら、とりあえず引いてみて、仲良く話ができる未来だけをひたむきに描いて、しかるべきタイミングでまたアプローチすると、何事もなかったかのように話ができることがあります(笑)。
新妻
(笑)
菊池さん
こうやって
追い求め続けている人こそ手に入れられるのが、セレンディピティ(偶然の産物)だと思う
んですよね。
新妻
そうですね。ラッキーなことって、本当に起こりうる確率が低いものと、それこそ努力をしていれば手に入るものとがあるような気がして、菊池さんの今までの結果は正に後者のような気がします。
努力の結果の末に手に入れた偶然によって、当初探していたものとは異なるかもしれないけども、それはそれで素晴らしい果実を手に入れる
、みたいな。非常に参考になりました。ありがとうございます。それでは最後に、今後の展望について教えてください。
菊池さん
近く、納豆の全国大会があるので、
自分の苦節41年の取り組みを一つの画(ナレッジ)にして、それをもとにした新しい納豆を造ろうと試みています。
これがなかなか画にならない。難しいですね。けど、再三言っているように、これは自分がやりたいことなんで、結果が出るのはいつでもいいんです。気長に待ちながらも、その画を求め続けていきたいと思います。
新妻
そうした苦悩の上で出来た納豆はきっと日立を代表する新たな納豆になること、間違いないですね!楽しみにしています。ありがとうございました。
「ありたい姿」を明確に描き、そうしたら、何事にも好奇心を持って、意識的に行動量を増やす。広い視野を持って物事を見たり、いつもとは違う行動をしたりすることで、セレンディピティに出会う可能性が増え、予想だにしなかったインパクトを残している菊池さんの人となりが分かるインタビューでした。
菊水食品のウェブページ
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