学校法人茨城キリスト教学園

【イベントレポート】
大学「IC with Uプロジェクト」始動!(1/2)~異文化の理解・浸透をめざして~

全国で日本語の指導が必要な外国人児童生徒数は10年間で1.5倍に増えており、中でも茨城県の対象児童数は全国で10番目の多さです。その中で、茨城県北地域は、指導が必要な児童が“散在”しているために支援が行き届きにくいという現状があります。そこで本学では「IC with Uプロジェクト」と銘打ち、“外国にルーツがある子どもへの学習支援”を始動させました。今回は、プロジェクトの1つの柱である、地域の小学生に海外文化の理解を深める取り組みをご紹介します。

■IC with Uプロジェクトとは…

茨城県北地域をフィールドに“多文化協働(共生)社会の構築”を進めていく、学園内組織の横断プロジェクトです。

プロジェクトを通して行う取り組みは3つ
①外国にルーツがある子どもたちへの学習支援
②地域市民への異文化理解・浸透
③学習支援ができる人材(多文化クリエイター)の育成(本学生対象)


「多文化協働社会」という言葉は、2005年頃からうたわれるようになりました。
近年ますます、この言葉への本格的な理解や必要性が高まっています。


それを表す2つの数字があります。一つが「日本語指導が必要な外国人児童生徒数の推移」です。
こちらを見ると、日本語学習支援が必要な児童は10年間で1.5倍になっていることが分かります。かつ、茨城県の対象児童数は全国で10番目の多さです。

もう一つ「実際に茨城県内で適切に日本語学習支援を受けられているのか」というデータもあります。こちらによると、茨城県北地域の児童は、県内の他の地域でサポートを受けている児童数の平均(54.4%)を大きく下回る数値となっており、茨城県北地域の学習支援が特に不足していることが分かります。

なぜなら、県北地域は、一つ一つの市の総面積が大きく(県内総面積TOP3は県北地域が独占)、かつ、日本語の指導が必要な児童が様々な地区に散在しているため、必要な支援が行き届きにくい
という特徴があるからです。

このような事実を受け止め、状況を改善していくための支援策を大学のカリキュラム(教育課程)に組み込みながら、プロジェクトとして展開する流れになりました。

そこで、今回は②地域市民への異文化理解・浸透の取り組みを紹介します。

大学文学部文化交流学科の「多文化協働演習」の授業では、異なる文化の理解と浸透を目的に、日立市内の小学校へ出向いて海外文化紹介の授業を行っています。

この日は、日立市南部の小学6年生を対象に、学生と高校の留学生が一緒になって、留学生の母国であるインドネシア・キルギス・ドイツ・フィリピン・ベトナムの文化や伝統について紹介しました。

留学生の多くは、新型コロナウィルス感染症の影響で日本に入国できない状況でしたが、オンライン会議システムを活用しながら積極的に小学生と交流してくれました。
 
紹介にあたっては、学生がデザインした「ICパスポート」を持って、「日本を出国し、それぞれの国に話を聞きに行く」という、非常にユニークな仕組みをとっています。児童はまるで旅行や留学気分で楽しく参加できました。

本学学生がデザインしたICパスポート。入国時には入国審査官(本学教員)立ち合いのもとスタンプを押してもらうというこだわりぶり。

こちらの出入国スタンプも、各国の特徴的なシンボルなどをモチーフに、学生が作成しています。

各国スタンプのモチーフ
左上から
① キルギス:ユキヒョウ
② キルギス:トゥンドゥック(移動式転居の天窓)
③ インドネシア:国旗
④ ベトナム:バイク
⑤ ベトナム:フォーを食べる人
⑥ ドイツ:アインシュタイン
スタンプを押してもらった児童は「今日はこんな国に行ったんだ!」と色とりどりのスタンプを見せ合ったり、「このスタンプは何を表しているの?」と各国の文化に興味津々だったり…様々な反応を示していました。

無事に入国を済ませると、体育館内に区画された興味のある国のブースで10分程度の文化紹介を聞きます。話を聞き終わったら、出国スタンプを押してもらいます。コロナ禍でなかなか遠出ができていない児童は、楽しそうに旅行気分を味わっていました。
 
ICパスポートには学生から見聞きしたことがびっしりとメモされていました。







授業終了後、本学4年生+留学生で組まれた「ドイツ紹介チーム」に、今日の授業までのお話を伺いました。
 
左から、松山夕輝さん、塚越海遥さん、飯村友香さん(本学4年生)

オクトーバーフェストなど伝統行事で着られるディアンドル(松山さん)や、刺繍やフロントデザインが特徴的なチロル(飯村さん)を着て参加していました。

— 授業を進めるうえで大変だったことや意識したこと、感想を教えてください。

松山さん
「私自身がドイツに留学していたという経験もあり、子どもたちにドイツのことを知ってもらえることにワクワクしました。とは言え、異文化に対する広い理解が目的なので、私たちの「ここを知ってほしい!」という想いを押し付けすぎず、フラットにドイツのことを知ってもらえるような構成にしました。」

飯村さん
「留学生から現地のことを教えてもらいながら資料を作成しますが、留学生全員が全員、正しく日本語を使えるわけではないです。反対に私たち日本人も、留学生とのコミュニケーション力や理解能力には個人差があります。なので、留学生が教えてくれたことを私たちが正しく受け止めているだろうか、しっかりと確認しながら作りました。」

塚越さん
「紹介する相手は小学6年生ですので、留学生から聞いたことを子どもたちに伝わるレベルまで咀嚼して記載しました。また、飽きないように写真を多めに入れて、「これはなんの写真だと思う?」という問いかけや対話も入れながら紹介をすることを心がけました。」

—ありがとうございました!“時差”言語などのハードルがある中で留学生と向き合う姿からは、多文化協働の楽しさと難しさを感じました。また、お互いの意思を汲み取ろうとする洞察傾聴の姿勢が、ともに生きる上で必要なことだと取材を通して感じました。

留学生とオンラインの動作確認をする様子(左)と、本高校のフィリピン人留学生ニッキーさんを交えて児童にフィリピン語をレクチャーする様子(右)

学生、先生の皆さん、ありがとうございました。
次回はいよいよ、外国にルーツがある子どもたちへの日本語学習支援や、その学習支援を支える学生の育成についてもリポートさせていただきます。