学校法人茨城キリスト教学園

【イベントレポート】
通信制高校で心のケア~新たな心理的支援の在り方~<地域貢献×教育×研究>

本学大学院生活科学研究科心理学専攻では、今年度より“通信制高校における実習を通して新たな心理的支援の在り方を模索しています。今回はそのチャレンジの背景や1年間の成果についてインタビューさせていただきました。

今回インタビューさせていただいたのは、県内の通信制高校への実習に参加した院生3名と担当教員2名の皆さんです。

上段:大学院生活科学研究科心理学専攻 岩﨑眞和講師(左)、櫻井由美子准教授(右)
下段:大学院1年 山本彩月さん(左)、1年 柏詩織さん(中央)、2年 熊崎文香さん(右)
右下:学園広報 新妻



茨城キリスト教大学 大学院 生活科学研究科心理学専攻とは

✔2020年4月開講。心理に関する支援や研究を遂行する高度専門職業人の養成を目的としている。
✔二分野(心理学基礎分野・心理学応用分野)から興味・関心に合わせて選択することが可能。

※大学院で指定科目を履修することで、<公認心理師受験資格>の取得が可能
【公認心理師】とは…
●日本で初となる心理学の国家資格
●保健医療、福祉、教育、司法、産業・労働 などの分野で心理的支援を行う


新妻
本日はよろしくお願いいたします。はじめに、今回の通信制高校への実習が実施されることになった背景を教えてください。

櫻井先生
そもそもの始まりで言いますと、茨城県が県内のフレックス高校(定時制・単位制・三部制)に入学する様々な困難を抱えた生徒達へのサポート体制を構築していくために、キャンパスエイド活動(大学生が高校生たちの話し相手として支援を行う)を推奨するようになりました。2018年、本学も県からのお声かけのもと、県北地域にある高萩高校との協働のもと、同校へのキャンパスエイド活動を実施する運びになりました。

岩﨑先生
一方で、本大学院の過程が始まってから、高萩高校での本学のキャンパスエイド活動を知った県内にある他の通信制高校の先生方から、通信制高校に通う生徒さんたちへのサポートの難しさについてこんなことを教えていただいたんです。それが、「通信制高校はスクールカウンセラーが配備されている公立高校に比べ、生徒が心理的SOSを訴える場が少ない」ということです。例えば、公立高校では生徒やその親御さん、教師の心理的支援を行うためのスクールカウンセラーを国や県の枠組みの中で比較的配置しやすいのですが、通信制高校では各高校の予算状況や方針の違いによって、頻度で言えば隔週か・要請があった時に来てもらえるか…といった状況も少なくありません。学生がクライエント(カウンセリングなど心理療法を受ける人、および社会福祉における相談者)や利用者と生きた関わりをもつ場を確保する必要性を実感しました。
上記課題を聞いた私たちは、キャンパスエイド活動の枠組みを援用するかたちで、通信制高校と大学院生との接点を持たせてもらえないか?と考えるようになりました。今回、こうした理念やアイデアを実習形式で快く受け入れてくださったのが、水戸平成学園高等学校の皆さんです。結論として、今年度は、おかげさまで大きな支障やトラブル等もなく、無事に1年間の実習を終えることができました。

新妻
そうだったんですね。チャレンジした感想や手ごたえが得られた背景について、思うことがあれば教えてください。

熊崎さん
これまでも他の実習先でも高校生とは触れあってきましたし、今回の実習のベースとなっているキャンパスエイドや通信制高校に通う生徒についての予備知識も入れた上で臨んだものの、最初から現場でうまくいくわけではありませんでした。はじめは、どこまで話しかけていいのか・触れていいのか、距離感にとても戸惑い、「私には何ができるんだろう?」という焦りがありました。しかし、回を重ねるごとに、「そこにいて、見守っているだけで役割を果たしているんだな」ということに気が付きました。生徒の取り組む課題を見たり、好きなアニメの話を聞いたりするだけで嬉しそうな顔を見せてくれるんです。「自分の考えを共有する相手を欲しているのだな」と思いました。今ではそれぞれの生徒が持つ想いやその裏にある背景が見えてくるようになったり、私のことを見つけたら自分から声をかけてくれるようになりました。

山本さん
今回、高萩高校のキャンパスエイド活動に引き続き、2度目の立ち上げの機会に携わらせていただきました。今回の活動がうまくいったとすれば、その要因は「多職種連携」が取れていたからだと思っています。このワードは心理学ではよく出てくるものなのですが、どうしても専門の心理職と受け入れ先の教職員の間では学生生活のサポートにおける考え方が異なる部分があります。しかし、水戸平成学園高校の皆さんは、双方の考え方を押し付けず、共有しあうことで、より良いサポート体制を構築していくために一丸となって動いてくださいました。活動を重ねるごとに、「今日の様子はどうだった?」と気にかけてくださったり、実習体制における提案も互いにしあうことができました。また、既に生徒と保健室(養護教員)の信頼関係があり、そこをベースにした関係作りができたのも実習がしやすかった一つかなと思っています。


柏さん
私は正直、月1~2回の実習でどこまで生徒に寄与できたのか…あまり手ごたえはありません。しかし、山本さんもおっしゃるとおり、既に受け入れ先の学内の体制が整っており、養護教員、教職員、そして私たち心理職の役割分担が明確に理解できたのは学びとして大きかったです。生徒にかける言葉一つとっても、「先生は教える責任があるからここまで生徒から話を聴いたり、指導したりする必要があるんだ」「その分、私たち心理職は先生とは違う視点からこういう部分のケアをしよう」など、他の専門職の方々もいらっしゃるなかで、私たちはどのように立ち回ればいいか、勉強になりました。このように、自分たちが目指している公認心理師に必要な、組織として生徒をどう見守っていけばいいのか、俯瞰して考える機会になりました。


 
岩﨑先生
最後に補足も含めて、私のほうから所感をまとめさせていただきます。この取り組みがうまくいったとすれば、その要因は次の3点にまとめられるのではないかなと思っています。

①関係者全員が協働しながら“誰でも活用できる”キャンパスエイドを展開できたこと

院生の皆さんからもあった通り、今回は受け入れ側の学校関係者の皆さんとの協働体制があったからこそ、手厚い見守りができたのではないかと思っています。特に、協働を加速させたのは、「(A)保健室の活用」と「(B)窓口となる先方のコーディネーターの先生」です。

(A)について、全日制高校のキャンパスエイドの考え方ですと、エイド室を利用してくれる生徒は、学校に来て授業を受ける時間は平気なものの、“休み時間の居場所が無い”という課題があります。したがって、“先生や親御さんから離れたところで落ち着いて話せる”ように、保健室や職員室から離れた「エイド室」で会話をさせていただきます。
ところが、通信制高校の生徒は“そもそも登校する機会が少ない”んですよね。だからこそ、教職員から離してしまうのでなく、保健室のような、先生とも距離が近い環境でキャンパスエイドができたことはとても良かったです。

また、(B)について、今回私たちの実習に窓口(コーディネーター)として立って下さったのは、本学OGの方でした。検討段階から、本学を理解したうえで地域貢献の面も含めてこの実習に期待を持ってくださっていましたし、何より臨床心理学への理解が深い先生でした。私たちがキャンパスエイドでどのようなケアをしているのか、そこが気になっている担任・教科担当の先生方に、丁寧に内容を説明してくださったおかげで、生徒たちのサポート体制を協働して構築することができました。
 

②心理職の卵であるICの大学院生が持つ“純粋さ”→生徒を脅かすことなく、寄り添った支援ができた

特に教育現場において心理に携わる人は、一人に対して長い間向き合えるわけではないので、ケアのスタートからエンドまで良い意味で“ずっと素人” のような、初心を忘れない姿勢が求められると思うんです。そういう意味では、プロの心理職ではない、真摯に“初心者マーク”をつけた院生さんたちが向き合ってくれたのが、高い満足度に繋がったのではないでしょうか。この先、公認心理師になっても、このことは忘れずにクライエントに向き合ってほしいですね。


③スクール型の通信制高校と特に相性がよかったのではないか?

今回受け入れ先となってくれた水戸平成学園高校さんは、通信制高校のなかでも、「まずは学校に登校してみる」という、基本的生活習慣を身に付けるため自由登校を主とする“スクール型”の高校です。つまり、“人と接すること”を何よりも大切にする通信制高校だったからこそ、ゆっくりと親交を深めたり、無理のない形での居場所を創るという私たちの取り組みが受け入れられやすかったのではないかと思います。異なるタイプの通信制高校においては、また違った形での心理的支援が展開できると思います。今後、こうしたほかのタイプの高校と本学とが連携していく可能性を考えますと、さらなる工夫と試行錯誤が必要に思います。

新妻
ありがとうございました。最後に、担当教員のお二人が考える今後の展望について教えてください。

岩﨑先生
これからも、地域貢献×教育×研究の三位一体の取り組みを進めていきたいです。偶然のご縁のなかで、OB・OGの方々との関係性が功を奏した部分もありました。受け入れ先の学校と実習生のつながりはもちろん、いつかは通信制高校で大学院生から心理的ケアを受けた生徒さんたちが本学に入学することがあるかもしれません。大学院生の学びの機会提供だけに留まらず、“地域に開かれた大学”を体現しながら取り組みを継続していければと思います。

櫻井先生
今回、院生の皆さんの実施報告書を見ましたが、生徒一人ひとりに対して本当に真摯に向き合っていることを実感しました。このようにしっかりと生徒と向き合う現場体験を経た院生の皆さんが、社会に羽ばたいていき、心理的支援の現場で力を発揮していくこれからが楽しみです。岩﨑先生からもあった通り、人と人との出会いは偶然で、突発的で、刹那的です。そういう人たちに向き合う楽しみもあれば、難しさもあります。だからこそ、ご縁を大切にすること、そして関わる人々との連携が大事だと思っています。今回の実習に関しても、後日カンファレンス(関係者間でよりよい在り方を模索していく場)を設ける予定です。水戸平成学園高校さんとの実習は来期も継続予定ですので、しっかりと今回の学びを活かしていきたいです。


ありがとうございました!


公認心理師は、「医療」「教育」「産業」「福祉」「司法」の各領域で活躍が大いに期待される仕事です。子どもからお年寄りまで、あらゆる状況や立場に置かれた人と接し、人々が抱える悩みや課題に心理的技法を用いながらアプローチします。不安や悩みというのは、人が生きていくうえで避けがたい一方で、人間的な成長や創造的な転機をもたらす側面もあります。そうした悩みや不安に向き合いながら、地域社会に貢献できるビジネスパーソンを本学大学院では育成していきます、引き続きのご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。